【学生取材】株式会社成島 ー全文記事ー

成島 集合写真 旅する冊子 取材インターン

伝統的な節句人形の製作を手掛ける「人形屋ホンポ」。そこを運営している株式会社成島。
先進技術と伝統の融合した姿とは如何に!?

会社紹介

株式会社成島は土浦にある「人形屋ホンポ」の経営と、通販サイトで節句人形を販売している会社です。現在は、四代目にあたる成嶋祐介さんが社長です。
1925年、現社長のひいおじいさんが節句人形やかばん、乳母車などを販売する会社を創業しました。
現社長によって、節句人形専門店として生まれ変わり、配送センターを併設して、店舗販売と通信販売の両方に対応した体制となりました。
注目すべきは通信販売の強さで、通販サイト内での出品数は約1万6000品と圧倒的な品揃えです。さらに、手ごろな価格設定+高品質という点において評価され、就任当初は5000万円だった売上は、11億円までに上りました。これは、業界内でもトップクラスの売上です。
大手玩具会社の「タカラトミー」や、大手人形メーカーの「久月」とのコラボ商品も手掛けています。
成島 外観 旅する冊子 取材インターン

会社見学

今回、私たちは人形の制作現場と、人形を保管する倉庫を見学しました。
成島では、人形を作る際に、最初に3Dプリンターやレーザーカッターなどを使って、一度商品として出荷できるほど精巧な試作品を制作します。その試作品をもとに、職人さんへ人形制作を依頼しています。 そうすることで、職人さんにより具体的な依頼をすることができるそうです。
「なぜ、3Dプリンターなどで作ったものを商品とせずに、職人さんを通すという二度手間のような工程をとるのですか?」と聞きました。
「たしかに3Dプリンターやレーザー加工などで作ったらもっと安くできる。でも、そこに価値や意味はあるのかを考えている。私たちの目的は安く売ることじゃなくて、人形というブランドを作ること。人形は、意味はあるけど実用性はないもの。だから、意味を積み重ねて価値を生み出していく必要があって、そこを大事にしている。」とのことでした。
成島 会社見学 旅する冊子 取材インターン

また、成島では人形の顔にとてもこだわりを持っています。昔の人形の顔は怖い印象がある。今の人にも受け入れられやすい顔を作るため、3Dグラフィックで細かい顔の調整をしているそうです。
たしかに昔の人形の顔と比べると、かわいくなっていると思います。
さらに、一枚の正面写真からそっくりな人形を作るという技術も見せてもらいました。写真から3Dに起こし、少し手を加えて本物に近づけていくそうです。見本で作った顔は本当に写真とそっくりで、技術力の高さに感動しました。
成島 会社見学 旅する冊子 取材インターン
 人形の保管されている倉庫は、たくさんの棚の中に段ボールが積まれ、どこにどんな人形があるのか見当もつかないように見えました。
しかし、一つ一つの段ボールにバーコードがあり、データ管理していると仰っていました。実はこれが成島の強さの秘密で、データ管理することで膨大な数の品物を扱うことが可能になったそうです。昔はどの棚にどの人形があるのか、曖昧に管理されていたそうですが 、今は随分スムーズに管理できていると仰っていました。

社長インタビュー

代表取締役 成嶋祐介さん

成嶋社長はとても話し上手で、話題が次から次へと出てくる方でした。そんな成嶋社長へいくつかの質問をさせていただきました。
成島 成島さん 旅する冊子 取材インターン
――新入社員にはどんなことを求めますか?
仕事を楽しんでくれることと不潔じゃないってことくらい。言ったことを守れるか、自分で目標設定を出来るかも大事。あと、やる気0で何でもできちゃう人は最高だね。そんな人が本気出したら、どんなことができるか楽しみなので。やる気を引き出すのが、私たちの仕事かな。

――普段、社員さんとどのようなコミュニケーションをとっていますか?
雑談がほとんど。業務に関することより話しているかも。社長って普段は会社の方針を決めたりするのが仕事だけど、そんな人が現場に出ていろいろ口出ししても上手くいかないことがほとんど。だから、業務にはあまり口出ししない。会社のミライの姿を考えるのが社長の仕事なら、現場は会社の今日明日のこと、という風に役割分担がある。
あと、名前を呼ぶときは基本的に「さん、君」付けにしています。

――どうしたら成嶋社長のようにたくさんの知識や情報を得られるのですか?
好奇心を持つこと。もともと好奇心が強かったので、いろいろなことに手を出してきたんだよね。その中には自分には全く関係ないだろうと思うようなこともあった。でも巡り巡って今の自分に関係してきているものがいくつもある。いろいろやってみるといいんじゃないかな。

――この先の時代においてこの仕事は残りますか?
仕事は消えちゃうかもしれないね。ゲームに例えると会社ってテトリスみたいなもので、自分の持つ知識で、落ちてきたものを上手く回してあてはめるイメージ。うまくいく時と、うまくいかない時って、どうしてもある。でも、この会社で働いている人は、それぞれの道に進んでも生き抜く力があると直に見ていて思うよ。

――自分をブランディングするには何が必要ですか?
まずは自分をしっかりと持つこと。自分はどんなことができるか。何が好きで、何に興味があるか。譲れないものは何かみたいなものね。私はタグをつけると表現してます。
タグの見つけ方は自己分析もあるけど、多くの人と接して、その人たちを通して鏡のように自分を見てみることが必要だと思うよ。

社員インタビュー

1人目:
遠近律子さん

遠近さんは10年目の社員さんです。都内で広告やグラフィックの仕事をされた後、茨城に帰ってきて株式会社成島でデザインや仕入れなどの業務をされています。
成島 遠近さん 旅する冊子 取材インターン
――なぜこの会社で仕事をやろうと思ったのですか?
明確に選んだ理由はないかもしれないですね。就職先を探していたら見つけたって感じです。でも今はとてもやりがいを感じています。

――前職までと比較して成島はどう違いますか?
前職まではフリーランス的な環境で、やらなきゃ食べていけないといった厳しい環境だったのですが、今は比較的柔軟で、働きやすい環境を作る余裕みたいなものを感じますね。

――東京と茨城といった場所の違いは感じますか?
そんなに大きな違いはないと思います。今はネットがあって買い物程度なら場所は関係ないですからね。ただ社会に揉まれるといった経験の数は、やっぱり東京のほうが多いのではないかと思います。

――株式会社成島で働くなら、どんなスキルを持った人が向いていますか?
やっぱり能動的に働ける人が向いてますね。業務の幅が広いので、仕事を待っているだけでは難しいと思います。

――この先もこの会社で働き続けますか?
自分と会社のお互いにメリットがあるなら働き続けるつもりです。自分だけではなくて会社との関係を考えることは、これからも必要だと思います。

 

2人目:
佐々木隆一さん

佐々木さんは4年目になる社員さんです。前職では競走馬のお世話やサービス業を経験していて、人形とは縁がなかったそうです。今は在庫管理が主な業務です。
成島 佐々木さん 旅する冊子 取材インターン
――なぜこの会社で仕事をやろうと思ったのですか?
最初は特に志望理由はなかったかなと思います。ただ、前職のサービス業は肉体的に大変で、転職活動をしていたら見つけました。管理の仕事は合ってるみたいで、今の仕事は楽しいですね。

――前職と比較して、この会社のココは違うというところはありますか?
やはり働き方に対して柔軟に受け入れてくれる環境があって、仕事はしやすいと思います。ちゃんと休みがあるのもいいですね。

――社長の印象を一言で表すなら何ですか?
「博識」ですかね。本当に沢山のことを知っているなと思うし、話をしていてとても面白いと感じます。新しいことに関しても感度は本当に高くて。最近は中国の深セン市の話題がよく出てきます。深セン市では、電気エンジンのバスが走って、コンビニの無人化も進んでいるらしいです。

――今後、この仕事をしていく上でやってみたいことはありますか?
人形が活躍する場を増やしていけたらいいなと思っています。今までは3月3日の桃の節句、5月5日のこどもの日など、限られた時期にしか飾られていません。しかしこれからは、本人の顔に似せた人形を作ったりもできるので、結婚式や成人式に飾ることもできます 。この人形の活躍の場を増やすということをやってみたいですね。

 

ワークショップ

成嶋社長へのインタビューでは、様々なお話を聞かせてもらうだけで、質問をする時間がなくなりました(笑)。そのため、ワークショップの時間に、今回の取材を通して気になったワードを付箋に書き出して共有し、成嶋社長へ質問をしました。
成島 ワークショップ 旅する冊子 取材インターン
共有したワードには、
・「ブランドは意味の積み重ね」
・「自分をブランディング」
・「会社側も形を変えることで時代にフィットする」
といった成嶋社長ならではの考え方。

・「組織化の中でのジレンマ」
・「雇用が安泰ではない」
という成島の成長過程を見てきた遠近さんのワード。

さらには、
・「将来もなくならない場をターゲットに」
・「新しいことを実現できる技術力」
・「社長さんと社員さんとの近しい距離感」
・「社員さんの多様性」
 といった佐々木さんからのワードも出てきました!

学生の感想

堀口晃(ひかる)


株式会社成島は伝統文化である節句人形という分野に、3Dプリンターなどの新しい技術を調和させて取り入れていて、とても面白いなと思いました。伝統を捨てるでもなく伝統にしがみつくでもなく、伝統を進化させるという形で次の世代につなごうという意思を感じました。
また、生き方や仕事に対する向き合い方についても、たくさん伺うことができました。特に「自分をブランディングしていく時代である」という言葉は、心に刺さるとともに、すんなりと腹落ちする感覚がありました。
今ある仕事がどんどんなくなっていくと言われる時代に、このような感覚が必要なのだと、より深い実感となりました。

藤川 尚(なお)

藤川なお
節句人形専門店と聞き、初めに思い浮かんだものは、「伝統的」「職人」「固い」といったワードでした。しかし、成島を訪れ、成嶋社長や社員さんのお話を聞いたり、社内見学をさせてもらうと、その反対にある「革新的」「先進技術」「柔らかい」といったワードが、上手く溶け込んでいるように思いました。
成嶋社長と社員さんの関係性も面白く、上下ではなく、同じ平行線上に立っているように見えました。その「近さ」が社員さんの力を引き出したり、「柔らかさ」を作り上げ、急成長の要因になったのではないでしょうか。
成嶋社長の持つ、最先端技術への知識や体験を基にした「働く」という考え方。これは社会に出る前の僕たちにとって、とても価値のあるものだと思いました。これからは「自分に魅力をつけること」を、自分の行動の一つの軸にしようと思います。